音大卒の生徒さんに相対音感トレーニングをしていた時のこと。
移動ドのトレーニングを始めて2ヵ月程になるが、これまでずっと固定ドでやってきたため、途中で固定ドの読み方に引っ張られたり、視唱している途中で音が突然ハ長調の音に変わったり、と、移動ドになかなか慣れず、抵抗感を感じているようだ。
子供の時から移動ドで教えられていれば、今そんなに苦労することもないのだが、音大を卒業して数年たった大人の生徒さんとなると、慣れるのに時間がかかる。
違える度にその生徒さんは、「あ~~っ!」「またやっちゃった~!!」などと叫び、大層がっかりしているようなのだが、先日のレッスンでは、初めてニ長調の簡単な聴音を行った時、「最初の2小節が一瞬、ドレミに聞こえました。」とおっしゃった。
一瞬であれ、これは大変良い兆候である。これまでレミファソラがレミファソラしか聞こえなかったのが、ドレミファソで聞こえたのだ。残念ながら、その後の残りの小節ではまた混乱がおこり、上手く聞き取れなかった音があったが、進歩が少し見えてきたようだ。
しかしまだ始めて数か月も経っていないので、固定ドの概念から抜け出すのにはもう少し時間がかかるだろう。そこで、今回は与えた課題を、移動ドでも抵抗感を感じなくなるまで練習するように伝えた。この積み重ねで少しずつ、固定ドのアレルギーから解放されるだろうと思う。
日本では学校の授業や音楽教室で移動ドを教える所がほとんどないため、大半の人はこの生徒さんのように音感がない、移調ができない、などの問題を抱えている。しかし、当教室の大人の生徒さんで唯一一人だけ、転調してもドレミファソに聞こえる、と言っていた方がいた。彼女は音感訓練を受けたわけでもないのだが、たまたま良い耳を持っていたのだろう。しかし、良い耳を持っていても、それが良い相対音感を持っているとは言えない。現に彼女は複雑な楽曲になると音が聴きとれず、間違った音も認識できない状態だった。
当教室ではこのような大人を一人たりとも生み出さないように、7歳以上の生徒さんは全員、ピアノレッスンと同時に相対音感訓練も行っている。子供でも抵抗なく、やさしい所から初めているので、子供達は「楽しい!」と言って、積極的に音感訓練を受けてくれているようだ。レッスン時間のほんの5分くらいで済んでしまうが、この5分が大きな違いを生み出すのである。