今回は、「完璧主義な子どもが陥りやすい罠」というテーマについてお話しします。私のレッスンでも、完璧主義の生徒さんが挑戦することを恐れてしまう場面によく出会います。失敗を極端に恐れたり、できないと思い込んで泣き出してしまったりすることもあります。今日はそんな子どもたちにどう寄り添い、サポートしていくべきかを考えてみたいと思います。
これはご家庭でのお子さんへの接し方にも通じることですので、ご父兄の方々も是非お読みいただければと思います。
完璧主義の子どもが陥りやすい罠とは?
完璧主義な子どもたちは、以下のような罠に陥りやすい傾向があります:
1.失敗を極端に恐れる
失敗することを「自分の価値の低下」と感じ、挑戦する前から諦めてしまうことがあります。このような生徒さんは、はなからできない、と思い込み、失敗するのを極度に恐れるため、簡単な課題でもやろうとしてくれません。失敗してもいいんだよ、などといくら励ましても応じてくれず、とりあえずやってみようよ、と促しても、泣き出してしまうケースもあります。
**対処法**
「失敗は学びの一部」という考えを伝え、小さな成功体験を積ませることが大切です。ピアノのレッスンであれば、要素を小さく分解したり、ソルフェージュで歌を歌う時に上手く歌えない時は、最初の音から次の音だけを歌わせる、など、生徒さんが容易にできる範囲まで細分化してやらせると、自信が持ちやすくなり、次へ進めることができます。
2.他人と自分を比較しすぎる
周りの子と自分を比べ、「自分は劣っている」と感じてしまうことがあります。特に小学生になると自我が芽生え、自分の能力を他人と比べるようになります。これは成長の一環でもありますが、過剰になると自己肯定感が低下し、「どうせ自分なんて…」という思考に陥ってしまうことがあります。
このような子供は、親御さん自身が他人と比べる傾向にあることが多いように感じています。普段の考え方や子供に対する発言、また言葉に出さなくても子供は親の考え方を敏感に察してしまいます。そのため、親御さん自身が「他人との比較ではなく、自分らしさを大切にする」という姿勢を見せることが、子どもにとって大きな影響を与えます。たとえば、以下のような意識や行動が役立つでしょう:
**対処法**
子どもの「今」を受け入れる
子どもがどの段階にいても、「それで十分だよ」「あなたらしくて素敵だよ」と、現在の状態を肯定的に受け止める姿勢を持つことが重要です。結果よりも努力や過程を評価する言葉がけを心がけましょう。
子供の成長を一緒に喜ぶ
小さな進歩でも一緒に喜び、「できた!」という感覚を共有することで、自己肯定感が育ちます。「前よりも少し速く弾けたね」「新しいことに挑戦して偉いね」と、小さな成功を見逃さないことがポイントです。
親自身が比較を手放す努力をする
他の子どもや家族と自分の子どもを無意識に比べてしまうことがあるかもしれませんが、そうした考えが顔や言動に表れないよう意識しましょう。親御さんが「他の家庭は関係ない。我が家のペースで大丈夫」という考え方を持つことで、子どもも自然に安心感を得ることができます。
自分の失敗談を話す
親御さん自身が過去に経験した失敗や、それをどう乗り越えたかを子どもに話してあげることも効果的です。「こんな失敗をしたけど、頑張って乗り越えたよ」と具体的に伝えることで、失敗が成長の一部であることを子どもが学べます。たとえば、「お母さんも昔、発表会で間違えたことがあるけど、そのおかげで次は練習をもっと頑張れたの」といったエピソードは、子どもに勇気を与えます。失敗談を共有することで、子どもは「失敗しても大丈夫なんだ」「次に活かせばいいんだ」と、失敗を前向きに捉える視点を持てるようになります。親の実体験から学ぶことは、子どもにとって非常に大きな励みになるのです。
3.結果重視でプロセスを見落とす
結果だけを追い求めると、努力のプロセスを楽しめなくなることがあります。 それが過度になってしまうと、他人に褒められるためだけに頑張り、自分で自分を評価する力が育たないことがあります。 これは子どもにとって非常なプレッシャーとなり、結果が思うように出なかった場合、「親が喜んでくれないから自分はダメなんだ」「良い子ではないんだ」と自分を責めてしまうことにつながります。こうした自己否定の感情は、子どもの成長にとって大きなマイナスです。
対処法:
努力していることをしっかり褒める
「結果」ではなく「過程」を評価し、子どもの頑張りそのものに注目することが大切です。「ここまで弾けるようになったのはすごいね」「一生懸命取り組んでいる姿が素敵だよ」など、成果だけでなく、日々の変化や努力の姿勢を肯定する言葉がけを意識しましょう。
失敗を受け入れる環境を作る
「失敗は成長の一歩」と伝え、失敗しても責められたり評価が下がったりしない環境を整えます。「今回は思うようにいかなかったけど、次に活かせるね」と声をかけることで、挑戦する気持ちを育てることができます。
子供と一緒に考え、達成感を味わえる工夫をする
ご自宅でも子どもと一緒に「どうやったらもっと楽しめるか」を考えるのも良い方法です。これは子供が毎日自ら進んでピアノを練習するためにも大事な要素です。たとえば、練習の工夫や目標を細かく設定して、達成感を味わえるようにするなど、プロセスそのものを楽しいと感じられる環境づくりを心がけましょう。
音楽をやる上で最も大事なのは、楽しむことです。もちろん、本当に楽しんで曲が弾けるようになるには、それなりに辛抱強く忍耐をもって練習に取り組む必要がありますが、弾ける楽しみがあるから、子供達は頑張れるのです。結果ばかりを求めてしまうと、子供は楽しむ気持ちがなくなり、本当はピアノを弾くのが好きなのに、ピアノ嫌いになってしまうことがあります。
以上、3つの点をお伝えしましたが、最後に、保護者の接し方次第でお子さんのプレッシャーになることもあるので、そのことについて述べたいと思います。
保護者の過干渉や接し方によってはプレッシャーになる場合も!
子供が小さいうちは、ご自宅での日々の練習において親御さんの練習サポートが必要であることをお伝えしていますが、子供が小学生になる頃から自我が芽生え、あまり過度に親御さんがレッスンに四六時中介入されると子供が嫌がってしまうケースがあります。 これは、子供に少しずつ自立心が芽生えている証拠です。
また、親御さんの誤った対応で良く聞くのが、練習で子供が失敗すると親御さんがイライラして怒ったり叱ったりすることです。親御さんから見れば「何でこんな簡単なことができないだ?」と思われるようですが、できないからピアノ教室へ通っているわけで、最初からちゃんとできる子供はほとんどいません。できなくて当たり前なのです。早く上達して欲しいという思いは素晴らしいことではありますが、その熱い思いがかえって子供にとってプレッシャーになることがあります。
もし親御さんが介入することで子供がプレッシャーを感じていたり、嫌がっているようでしたら、少し距離を取ることを提案します。別室で待機する、静かに見守るなど、親御さんの関与の仕方を少し変えるだけで、子供がリラックスして取り組めるようになります。
完璧主義の子どもが陥りやすい罠とその対処法についてお話ししましたが、共通して言えるのは「子ども一人ひとりのペースを尊重し、挑戦を楽しめる環境を整えること」が重要だということです。失敗を受け入れ、努力を認め、子どもの個性に寄り添ったサポートをすることで、ピアノだけでなく、人生においても前向きな姿勢を育むことができます。
親御さんの接し方が子どもの心に与える影響は大きいですが、少し意識を変えるだけで、子どもたちは安心して自分の可能性を広げることができるでしょう。ぜひ、ピアノを通して成功体験を積み重ね、音楽を心から楽しむ力を育てていただけたらと思います。
音楽は、子どもたちにとって人生を豊かにする素晴らしい財産です。その楽しさを共有し、学びと成長の場を提供していけるよう、当教室も引き続きサポートしていきます!